和算の問題を解いてみる(2)

今回は、あとで思いついたもうひとつの解法。
次の補題を使う。

補題) 三角形 ABC で c=AB、内接円の半径を r とすると
\Large \cot\frac{A}{2} + \cot\frac{B}{2} = \frac{c}{r}

ほとんど明らかだが、一応証明しておく。
\Large AH = r \cot\frac{A}{2},\;HB = r \cot\frac{B}{2}

\Large AH+HB = AB = c
に代入すればよい■

問題を再掲しておく。
補題と記号が被ってるけど大丈夫だろう。

問題:図で正三角形の1辺が1、小さい3個の円が同じ大きさとする。大きい円の半径を求めよ。

小さい円の半径を r とする。
式を簡単にするため変数 z を導入して
\Large r = \frac{\sqrt{3}}{2}z\hspace{356pt}(1)
とする。

最初に方針を書いておくと、∠BCD, ∠BDC, BD, CD, AD, ∠ADE, ∠CDE, ∠DCE の順で z による式を求めて、最後に △CDE に補題を適用して z の方程式を導く。

BCD補題を適用して*1
\Large \cot 30^\circ + \cot\left(\frac{1}{2}BCD\right) = \frac{1}{r}
(1) を代入して整理すると
\Large \cot\left(\frac{1}{2}BCD\right) = \frac{2-3z}{\sqrt{3}\,z}\hspace{237pt}(2)

BCD の内角の和を考えると ∠BDC = 120°- ∠BCD
cot の加法定理
\Large \cot(\theta+\phi) = \frac{\cot\theta\cot\phi-1}{\cot\theta+\cot\phi}
から
\Large \cot\left(\frac{1}{2}BDC\right) = \cot\left(60^\circ-\frac{1}{2}BCD\right) = \frac{\sqrt{3}+\cot\left(\frac{1}{2}BCD\right)}{\sqrt{3}\,\cot\left(\frac{1}{2}BCD\right)-1}
(2) を代入して
\Large \cot\left(\frac{1}{2}BDC\right) = \frac{1}{\sqrt{3}(1-2z)}\hspace{209pt}(3)

△BDC に補題を適用して
\Large \cot 30^\circ + \cot\left(\frac{1}{2}BDC\right) = \frac{BD}{r}
(1)(3) を代入して
\Large BD = \frac{z(2-3z)}{1-2z}\hspace{299pt}(4)

同様に △CDB に補題を適用して、(1)(2)(3) を代入して整理すると
\Large \cot\left(\frac{1}{2}BCD\right) + \cot\left(\frac{1}{2}BDC\right) = \frac{CD}{r} \\ CD = \frac{1-3z+3z^2}{1-2z}\hspace{278pt}(5)

(4) から
\Large AD = 1-BD = \frac{(1-z)(1-3z)}{1-2z}\hspace{176pt}(6)

△ADE に補題を適用して (1)(6) を使うと
\Large \cot 30^\circ + \cot\left(\frac{1}{2}ADE\right) = \frac{AD}{r} \\ \cot\left(\frac{1}{2}ADE\right) = \frac{(1-4z)(2-3z)}{\sqrt{3}\,z(1-2z)}\hspace{172pt}(7)

∠CDE = 180°- (∠ADE + ∠BDC) だから
\Large \cot\left(\frac{1}{2}CDE\right) = \cot\left\{90^\circ-(\frac{1}{2}ADE+\frac{1}{2}BDC)\right\} = \frac{1}{\cot\left(\frac{1}{2}ADE+\frac{1}{2}BDC\right)}
右辺を加法定理でばらして (3)(7) を代入。
\Large \cot\left(\frac{1}{2}CDE\right) = \frac{\sqrt{3}(1-2z)^2(1-3z)}{(1-z)(1-6z+6z^2)}\hspace{142pt}(8)

∠DCE = 60°- ∠BCD
\Large \cot\left(\frac{1}{2}DCE\right) = \cot\left(30^\circ-\frac{1}{2}BCD\right)
加法定理でばらして (2) を代入。
\Large \cot\left(\frac{1}{2}DCE\right) = \frac{\sqrt{3}(1-z)}{1-3z}\hspace{216pt}(9)

ここまで △DCE の内接円の半径が r であることを使っていない。
△DCE に補題を適用すると
\Large \cot\left(\frac{1}{2}CDE\right) + \cot\left(\frac{1}{2}DCE\right) = \frac{CD}{r}
これに (1)(5)(8)(9) を代入して整理すると
\Large \frac{1-16z+99z^2-309z^3+528z^4-477z^5+180z^6}{z(1-z)(1-2z)(1-3z)(1-6z+6z^2)} = 0\hspace{50pt}(10)

(10) の分母の正の零点のうち最小のものは 1-6z+6z^2=0 の小さいほうの根 z=0.211 で、(4) を見ればこれは BD=1/2 に対応している。△BCD に円を詰めたとき、BD>1/2 だと、△ADE に同じ大きさの2個目の円を配置することは明らかに不可能。BD=1/2 のときは △ADE に2個目の円をぎりぎり配置できるが、△CDE が完全につぶれてしまう。結局 BD<1/2 でなければならず、この条件は z<0.211 に対応する。
だから、考えるべき z の範囲で分母は正としてよい。

結局、(10) の分母を払って
\Large 1-16z+99z^2-309z^3+528z^4-477z^5+180z^6 = 0
を解けばよい。
前の記事と比べるとかなり簡単な式になった。

*1:"∠" を出そうとして \angle とやると "\angle" という謎の記号になってしまうので、TeX の数式中で "∠" は省略することにする。