水星の近日点移動(7)

これから水星の軌道を摂動の2次の近似で求めることにする*1
まず前回の (4) 式
\Large \left(\frac{{\rm d}x}{{\rm d}\psi}\right)^2 = 1 - x^2 + \beta x^3 \hspace{563pt}(1)
の近似解を求める。

(1) を振動子の方程式と見て x を質点の位置、ψ を時間と考えることにする。
ψ=0 で質点の位置が正方向に最大になるように初期条件を選ぶ。
質点が初期位置 X から x まで動くのにかかる時間は、x から X まで動くのにかかる時間と同じだから*2
\Large \psi = \int_x^X \frac{{\rm d}x}{\sqrt{1-x^2+\beta x^3}}\hspace{592pt}(2)

非線形振り子の記事でやったのと同じように
\Large \xi^2 = x^2-\beta x^3\hspace{600pt}\hspace{29pt}(3)
となる変数 ξ(≧0) を導入する。
(3) を x について「解く」と、非線形振り子の記事の (4) で n=3 としたものになって
\Large x = \xi + \frac{1}{2}\beta\xi^2 + \frac{5}{8}\beta^2\xi^3 + O(\beta^3)\hspace{482pt}(4)

(2) の変数を x から ξ に変換する。
X は質点の位置の最大値だから、x=X のとき \frac{{\rm d}x}{{\rm d}\psi} = 0。だから (1) より X^2-\beta X^3=1。このとき (3) より ξ=1 だから積分の上限は 1。あとは (3)(4) を使って
\Large \psi = \int_\xi^1 \left\{1+\beta\xi+\frac{15}{8}\beta^2\xi^2+O(\beta^3)\right\} \frac{{\rm d}\xi}{\sqrt{1-\xi^2}}
ξ=cosθ と置換すればこれは簡単に積分できて
\Large \psi = \arccos\xi + \beta\sqrt{1-\xi^2} + \frac{15}{16}\beta^2\left(\arccos\xi+\xi\sqrt{1-\xi^2}\right)+O(\beta^3)\hspace{199pt}(5)

これを (3) と合わせれば x と ψ の関係が決まるので、これで一応微分方程式 (1) は解けたわけだが、このままでは見づらいから、まず (5) を ξ について解く。

\Large \Omega = 1-\frac{15}{16}\beta^2\hspace{600pt}\hspace{43pt}(6)
とすると
\Large \frac{1}{\Omega} = 1+\frac{15}{16}\beta^2+O(\beta^4)
だから
\Large \psi = \frac{1}{\Omega}\arccos\xi +\beta\sqrt{1-\xi^2} + \frac{15}{16}\beta^2\xi\sqrt{1-\xi^2}+O(\beta^3)
少し変形して
\Large \arccos\xi = \Omega\left(\psi -\beta\sqrt{1-\xi^2} - \frac{15}{16}\beta^2\xi\sqrt{1-\xi^2}\right)+O(\beta^3) \\ = \Omega\psi -\beta\sqrt{1-\xi^2} - \frac{15}{16}\beta^2\xi\sqrt{1-\xi^2}+O(\beta^3)\vspace{40pt}
(6) から \Omega\beta = \beta+O(\beta^3) となることを使った。
両辺の cos を取って
\Large \xi = \cos\left(\Omega\psi - \beta\sqrt{1-\xi^2} - \frac{15}{16}\beta^2 \xi\sqrt{1-\xi^2}\right)+O(\beta^3)\hspace{316pt}(7)
ここで、f(x) が微分可能で |\epsilon| が小さいとき f(x+\epsilon) = f(x)+O(\epsilon) となることを使って、O(\beta^3) を cos の外に出した。これと同様の変形は以下断らないことにする。

(7) は解くべき ξ が右辺にも現れていて、わざわざ変な形に書いたようだが、以下でやるように右辺を ψ だけの式に直せる。

まず
\Large \xi = \cos\left(\Omega\psi\right)+O(\beta)\hspace{569pt}(8)
これから
\Large \sqrt{1-\xi^2} = \sin(\Omega\psi)+O(\beta)
これを (7) の左の √ のところに使って
\Large \xi = \cos\{\Omega\psi - \beta\sin(\Omega\psi)\}+O(\beta^2)
加法定理で展開して
\Large \xi = \cos(\Omega\psi)\cos\{\beta\sin(\Omega\psi)\} + \sin(\Omega\psi)\sin\{\beta\sin(\Omega\psi)\}+O(\beta^2) \\ = \cos(\Omega\psi)\{1+O(\beta^2)\} + \sin(\Omega\psi)\{\beta\sin(\Omega\psi)+O(\beta^3)\}+O(\beta^2)\\=\cos(\Omega\psi)+ \beta\sin^2(\Omega\psi)+O(\beta^2)\hspace{440pt}(9)\vspace{40pt}
|x|\ll 1 のとき \cos x=1+O(x^2),\;\sin x=x+O(x^3) であることを使った。
これからまた \sqrt{1-\xi^2} を求めると
\Large 1-\xi^2 = 1-\{\cos(\Omega\psi) + \beta\sin^2(\Omega\psi)\}^2+O(\beta^2) \\ = 1- \cos^2(\Omega\psi) - 2\beta\sin^2(\Omega\psi)\cos(\Omega\psi) + O(\beta^2) \\ = \sin^2(\Omega\psi)\{1 - 2\beta\cos(\Omega\psi)\} + O(\beta^2)\vspace{40pt}\\ \sqrt{1-\xi^2} = \sin(\Omega\psi)\sqrt{1-2\beta\cos(\Omega\psi)}+O(\beta^2)\\ = \sin(\Omega\psi)\{1 - \beta\cos(\Omega\psi)\} + O(\beta^2)

これと (8) を (7) の cos の中身に使って
\Large \xi = \cos\left\{\Omega\psi - \beta\sin(\Omega\psi) + \frac{1}{16}\beta^2\sin(\Omega\psi)\cos(\Omega\psi)\right\}+O(\beta^3)

あとは (9) を求めたときと同じように加法定理で展開して
\Large \xi = \cos(\Omega\psi)\cos\left\{- \beta\sin(\Omega\psi) + \frac{1}{16}\beta^2\sin(\Omega\psi)\cos(\Omega\psi)\right\}\\\;\;\;-\sin(\Omega\psi)\sin\left\{- \beta\sin(\Omega\psi) + \frac{1}{16}\beta^2\sin(\Omega\psi)\cos(\Omega\psi)\right\}+O(\beta^3) \\ =\cos(\Omega\psi)\left\{1-\frac{1}{2}\beta^2\sin^2(\Omega\psi)\right\}-\sin(\Omega\psi)\left\{- \beta\sin(\Omega\psi) + \frac{1}{16}\beta^2\sin(\Omega\psi)\cos(\Omega\psi)\right\}+O(\beta^3)\\ = \cos(\Omega\psi)+\beta\sin^2(\Omega\psi)+\frac{9}{16}\beta^2\sin^2(\Omega\psi)\cos(\Omega\psi)+O(\beta^3)\hspace{204pt}(10)\vspace{30pt}
2番目の等号のところで |x| が小さいとき \cos x = 1-\frac{1}{2}x^2+O(x^4) であることを使った。

ここまで何をやってきたかというと、(8)→(9)→(10) と粗い近似値を (7) の右辺に繰り返し代入して、精度を上げてきたのだ。

(10) を (4) に代入すれば x を ψ で表せる。単純な計算なので結果だけ書くと
\Large x=\cos(\Omega\psi)+\frac{1}{2}\beta\{2-\cos^2(\Omega\psi)\} + \frac{1}{16}\beta^2\cos(\Omega\psi)\{7+3\cos^2(\Omega\psi)\} +O(\beta^3)\hspace{70pt}(11)
倍角、3倍角公式を使えば
\Large x= \cos(\Omega\psi)+\frac{1}{4}\beta\{3-\cos(2\Omega\psi)\} +\frac{1}{64}\beta^2\{37\cos(\Omega\psi)+3\cos(3\Omega\psi)\}+O(\beta^3)\hspace{50pt}(12)

ちょっと半端だが続きは次回で。

*1:他の惑星からの影響を無視したとしても、重力場シュヴァルツシルト解とする近似がこのオーダーでは無意味らしいので、数学的な興味を満たすだけに過ぎないが。

*2:面倒なので積分変数と定積分の境界に同じ変数(というか変数名か)を使う。