チャンドラセカール限界(1)

電子の縮退圧で支えられた星、白色矮星に上限の質量があることは、インド人の天文学者、チャンドラセカール(Chandrasekhar)によって1931年に示された。
この上限質量は、文献によれば、太陽質量のおよそ1.4倍になるはずだ。
これを計算してみる。

まず今回は、星を構成する物質の状態方程式を求めるところまで。

電子を完全に縮退した(=絶対零度の)相対論的な理想気体として計算する。
星はこの電子の圧力によって支えられているとする。
電子による圧力だけを考えて、原子核のぶんを無視するのは、軽い電子のほうが、低いエネルギーの状態数が少なく、高いエネルギー状態に追いやられやすいためだ。

体積 V、運動量 p までの電子の理想気体の1粒子状態数は
\Large \2h^{-3} V \frac{4\pi}{3}p^3 = \frac{8\pi}{3} \frac{Vp^3}{h^3}
最初の 2 は電子のスピンの自由度。

完全縮退なので、この状態は下から順に、ある運動量 p_{\small F} のところまで完全に埋まっていて、そこから先は空っぽだ。
p_{\small F}フェルミ運動量とか言うらしい。
体積 V 内の電子の個数 N は
\Large N = \frac{8\pi}{3} \frac{V{p_{\small F}}^3}{h^3}

相対論的な電子1個のエネルギーは cp で近似できるから、この縮退物質の体積 V 内の内部エネルギー E は
\Large E=\int_0^{p_{\small F}} cp \frac{\partial}{\partial p}\left(\frac{8\pi}{3} \frac{Vp^3}{h^3}\right){\rm d}p = 2\pi \frac{cV{p_{\small F}}^4}{h^3}

E と N の式から p_{\small F} を消去すると
\Large E = \frac{3}{8} \left(\frac{3}{\pi} \right)^{1/3} ch \left(\frac{N^4}{V}\right)^{1/3}
圧力 P は
\Large P = -\left(\frac{\partial E}{\partial V}\right)_N=\frac{1}{8} \left(\frac{3}{\pi} \right)^{1/3} ch \left(\frac{N}{V}\right)^{4/3}

電子1個に対する核子数を \mu_{e}核子の質量を m_{\small N} とする。
例えば、星がヘリウム4や炭素12から出来てたら、電子1個につき陽子と中性子が1個ずつ、計2個の核子があるので、\mu_{e} = 2 だ。
この縮退物質の密度 ρ は
\Large \rho=\frac{\mu_{e} m_{\small N} N}{V}

P と ρ の式から状態方程式が求まる。
\Large P = K\rho^{4/3}
面倒な比例定数を K と置いた。
\Large K = \frac{ch}{8} \left(\frac{3}{\pi {\mu_{e}}^4 {m_{\small N}}^4}\right)^{1/3}

完全縮退した相対論的な縮退物質の圧力は、密度のみの関数で、密度の 4/3 乗に比例することが分かる。