√2+√3>π

日付的にちょうどいいので、円周率について一題。

√2+√3 は π の良い近似値で、誤差 0.15% より小さい。
√2, √3, π という簡単な数の間にこんな関係があるなら、何か幾何学的な理由がありそうな気がするが、そういうものはまだ知られていないらしい。

で、タイトル通り √2+√3 のほうが少し大きいのだが、これを証明したい。
平方根や π の近似値を使えば、小学生レベルの問題だが、近似値は未知として、開平計算や長い級数展開もなるべく使わないのが、この手の問題の暗黙のゲームのルールと了解されてると考えていいだろう。

0 < \theta < \frac{\pi}{2} のとき、sin と tan のテイラー展開から
\Large \sin \theta > \theta - \frac{\theta^3}{6}
\Large \tan \theta > \theta + \frac{\theta^3}{3}
\theta^3 の項が相殺するように重みをつけて足せば
\Large 2\sin \theta + \tan \theta > 3\theta

自分はたまたまテイラー展開から気づいたのだが、これは Snellius-Huygens の不等式として知られているものだと某所で教えてもらった。

この不等式で \theta = \frac{\pi}{12} として
\Large \sin \frac{\pi}{12} = \frac{\sqrt{3}-1}{2\sqrt{2}}
\Large \tan \frac{\pi}{12} = 2-\sqrt{3}
を使えば
\Large 2(4-\sqrt{2}-2\sqrt{3}+\sqrt{6}) > \pi\hspace{50pt}(1)

\theta = \frac{\pi}{12} のとき、左辺が有理数と √2,√3 の組み合わせで書けることは、計算しなくても分かるので、最初頭の中で考えているとき、これが √2+√3 と等しいのかと思ったものだ。
実際に計算して、そうでないことにがっかりしたのだが、√2+√3 との差は小さく、有理数に √2,√3 を添加した体の代数的整数と考えて、ノルムを計算すると
\Large N(\sqrt{2}+\sqrt{3} - 2(4-\sqrt{2}-2\sqrt{3}+\sqrt{6})) \\ = N(-8+3\sqrt{2}+5\sqrt{3}-2\sqrt{6}) \\ = (-8+3\sqrt{2}+5\sqrt{3}-2\sqrt{6})(-8-3\sqrt{2}+5\sqrt{3}+2\sqrt{6})\\ \;\;\times(-8+3\sqrt{2}-5\sqrt{3}+2\sqrt{6})(-8-3\sqrt{2}-5\sqrt{3}-2\sqrt{6}) \\ = 1
となって、これが単数(1の約数)であることが分かる。
なので、これがより簡単な単数の積に分解されると推測できて、以下の証明にたどりつく。

\Large \sqrt{2}+\sqrt{3} - 2(4-\sqrt{2}-2\sqrt{3}+\sqrt{6}) = (\sqrt{2}-1)^2 (2-\sqrt{3})^2 (\sqrt{3}-\sqrt{2}) > 0
なので、(1) とあわせて
\Large \sqrt{2}+\sqrt{3}>\pi

この証明は以前某所に書き込んだものだが、他に転載されたりもして結構評判が良かった。
よく知られた π の近似値 22/7 が π より大きいことの証明にも同様の論法が使える。

\Large \frac{22}{7} - 2(4-\sqrt{2}-2\sqrt{3}+\sqrt{6}) = \frac{2}{7}(\sqrt{2}-1)^3 (2-\sqrt{3})^2 (\sqrt3-\sqrt2)^2 (\sqrt{6}+1) > 0
これと (1) より
\Large \frac{22}{7}>\pi