量子エネルギーテレポーテーション(3)

前回までで計算は済んだのだが、今回は計算してきたことの意味を考えてみる。

A の測定による波束の収縮はエネルギーも情報も伝えないはずだから、B だけを見ている限り、A での測定の前後での変化は見られない。エネルギーに関しては計算したところ、H_A の期待値だけが増えて、H_BV の期待値は確かに変化しなかった。

ところが A から測定結果の情報が送られてくると、B からエネルギーが取り出せるようになる。
エネルギーを取り出すユニタリー操作で変化するのは H_B+V の期待値だけで、H_A の期待値は変化しない。
だから、A の測定によって系に与えられたエネルギーが B にやってきたと解釈することはできない。

エネルギーが移動していないはずなのに、A に与えたエネルギーの一部が B から取り出せるように見える。これは、量子テレポーテーションより不思議な気がする。
(量子テレポーテーションは量子情報を持った粒子が飛んでくので、ちっともテレポーテーションじゃないじゃんと思ったものだ。まあ、量子情報が転送できること自体がすごいんだけど、古典情報と違って。)

B からエネルギーを取り出せるのは何故かを考えてみよう。
A で α=1 の観測値を得たとき、本来なら B は U_B(1) で回転させるのだが、逆方向の回転 U_B(-1) をしたとしたら、回転後の全体系の状態は
\Large U_B(\mp 1) |A(\pm 1)\rangle \;=\; |\alpha=\pm 1\rangle \{\sin(-\theta+\phi)|\uparrow\rangle \;\mp\; \cos(-\theta+\phi)|\downarrow\rangle\}

このとき取り出せるエネルギーの期待値を E_B' とすると
\Large E_B' \;=\;h\cos(-2\theta+2\phi)\;+\;2k\sin(-2\theta+2\phi)\;-\;h\cos(2\phi)\;-\;2k\sin(2\phi)
これに前回の θ, φ
\Large 2\theta = \arctan\left(\frac{2k}{h}\right) - \arctan\left(\frac{k}{h}\right) \\ 2\phi = \arctan\left(\frac{k}{h}\right)
を代入して
\Large E_B' = \frac{h^4+3h^2k^2+4k^4}{\sqrt{h^2(h^2+3k^2)^2+4k^6}} \;-\; \frac{h^2+2k^2}{\sqrt{h^2+k^2}}
E_B' < 0 なので、逆回転すると B にエネルギーを取られてしまうことが分かる。
α=±1 のそれぞれの確率は 1/2 ずつなので、α の測定値を知らなければ、得られるエネルギーの期待値は (E_B+E_B')/2 だが、計算するとこれは負なのでエネルギーは取り出せない。

ただし、上の議論はあくまで得られるエネルギーの期待値についてのものに過ぎず、1回ごとのエネルギーについてはよく分からないので、それを調べてみる。

回転 U_B(\gamma),\;(\gamma=\pm1) によって取り出せるエネルギーに対応する演算子 {\cal E}_B(\gamma)
\Large {\cal E}_B(\gamma) = H - U_B(\gamma)^\dagger H U_B(\gamma)
とする。

以降計算は省略して結果だけ。
この演算子固有値は(γによらず) +\epsilon-\epsilon のいずれか。ただし
\Large \epsilon = \sqrt{2(1+4k^2)\{1-\cos(2\theta)\}} = \sqrt{2(1+4k^2)\{1-\frac{1+2k^2}{\sqrt{(1+k^2)(1+4k^2)}}\}}

測定値 α を得て、U_B(\alpha) で回転すれば、取り出せるエネルギーは +\epsilon の確率が高く、期待値は E_B (>0)
逆方向に回転すれば -\epsilon の確率が高く、取り出せるエネルギーの期待値は E_B'(<0)
A の測定をする前、または測定後に測定値を知らずに回転すれば -\epsilon の確率が少し高く、取り出せるエネルギーの期待値は (E_B+E_B')/2\;\;(<0)

つまり、もともと当たり(+\epsilon)よりはずれ(-\epsilon)を引く確率が高かったのが、A の測定値 α を知ることで B の状態を知ることができて、当たりを引く確率を高めることができるということだろう。


以下自分用メモ
\Large {\cal E}_B(1)|\alpha \rangle |\uparrow\rangle \;=\; \{h-h\cos(2\theta)-2\alpha k\sin(2\theta)\}|\alpha\rangle|\uparrow\rangle \;+\; \{h\sin(2\theta) + 2\alpha k[1-\cos(2\theta)]\}|\alpha\rangle|\downarrow\rangle \\ {\cal E}_B(1)|\alpha \rangle |\downarrow\rangle \;=\; -\{h-h\cos(2\theta)-2\alpha k\sin(2\theta)\}|\alpha\rangle|\downarrow\rangle \;+\; \{h\sin(2\theta) + 2\alpha k[1-\cos(2\theta)]\}|\alpha\rangle|\uparrow\rangle