水星の近日点移動(2)

近日点移動の計算をするとき、教科書ではシュヴァルツシルト(Schwarzschild)時空の計量から始めるのが普通だ。
で、今まで勘違いしていたのだが、アインシュタインの計算もシュヴァルツシルト解を使っていると思っていた。でもよく考えると、一般相対論は1915〜1916年に完成したことになってるので、1915年の水星の近日点移動の論文でシュヴァルツシルト解を使うというのは随分早い気がする。
この辺を調べてみると、アインシュタイン重力場の方程式の最初の論文と水星の近日点移動の論文の日付が共に1915年11月25日で、この時点でアインシュタインシュヴァルツシルト解を知らずに、近似解を使って計算している。
シュヴァルツシルトのほうは1915年12月22日にシュヴァルツシルト解(現在外部解と呼ばれてるほう)についてアインシュタインに書簡を送っている。
近似解から正しい結果に到達しているアインシュタインもすごいが、シュヴァルツシルトの計算の速さが驚異的だ。
シュヴァルツシルトがいつアインシュタイン方程式を知って、いつからシュヴァルツシルト解の計算を始めたのか良く分からないが、書簡を見ると水星の近日点移動を念頭に計算しているようなので、計算に取り組んだのはアインシュタインの論文が出たあとで、ひと月足らずの間にシュヴァルツシルト解を得たということになるのだろうか。
しかもこのときシュヴァルツシルトは従軍中だった。書簡には「たいしたことのない計算(Eine nicht zu große Rechnerei)」とはあるが。

因みに、アインシュタインの水星の近日点移動の論文とシュヴァルツシルトからアインシュタインへの書簡の英訳とドイツ語の原文は
Anatoli Andrei Vankov, Einstein's Paper: "Explanation of the Perihelion Motion of Mercury from General Relativity Theory"
http://www.wbabin.net/eeuro/vankov.pdf
で読める。