水星の近日点移動(3)

水星の質量を m として、G=c=m=1 の単位系を使う。
太陽の質量を M として、水星の軌道をシュヴァルツシルト時空
\Large {\rm d}s^2 = \left(1-\frac{2M}{r}\right){\rm d}t^2 - \left(1-\frac{2M}{r}\right)^{-1}{\rm d}r^2 - r^2 ({\rm d}\theta^2 + \sin^2\theta {\rm d}\phi^2)\hspace{50pt}(1)
での測地線とする。
2M は太陽のシュヴァルツシルト半径(普通の単位系では 2GM/c^2)。

ドットを s での微分
\Large F = \left(1-\frac{2M}{r}\right)\dot{t}^2 - \left(1-\frac{2M}{r}\right)^{-1}\dot{r}^2 - r^2 (\dot{\theta}^2 + \sin^2\theta \dot{\phi}^2)
として、前々回の結果から測地線の方程式は
\Large \frac{\rm d}{{\rm d}s}\frac{\partial F}{\partial \dot{x}^\mu} - \frac{\partial F}{\partial x^\mu} = 0
で求められる。

座標を適当にとれば、水星の軌道は \theta=\pi/2 の面内にあるとしてよい(証明はこの記事の最後で)。なので以後 \theta=\pi/2,\;\dot{\theta}=0 とする。

x^\mu=t,\;\phi とすると
\Large \frac{\rm d}{{\rm d}s}\left\{\left(1-\frac{2M}{r}\right)\dot{t}\right\}=0\\ \frac{\rm d}{{\rm d}s}(r^2\dot{\phi})=0
これはそれぞれ力学的エネルギーと軌道角運動量の保存を表しているので、積分定数を E, L と書くことにする。
\Large \left(1-\frac{2M}{r}\right)\dot{t} = E\hspace{200pt}(2)\\ r^2\dot{\phi}=L\hspace{257pt}(3)

(1)を {\rm d}s^2 で割って \theta=\pi/2,\;\dot{\theta}=0 とした式
\Large 1 = \left(1-\frac{2M}{r}\right)\dot{t}^2 - \left(1-\frac{2M}{r}\right)^{-1}\dot{r}^2 - r^2\dot{\phi}^2\vspace{40pt}
で、(2)(3)により \dot{t},\;\dot{\phi} を消去して、多少変形すると
\Large \dot{r}^2 = E^2 - \left(1-\frac{2M}{r}\right)\left(1+\frac{L^2}{r^2}\right)
これを(3)の2乗で割れば s での微分が消えて
\Large \frac{L^2}{r^4}\left( \frac{{\rm d}r}{{\rm d}\phi}\right)^2 = E^2 - \left(1-\frac{2M}{r}\right)\left(1+\frac{L^2}{r^2}\right)
この方程式を解けば軌道の形が求まる。


軌道が \theta=\pi/2 の面内にあることを確かめておく。
まあ、対称性を考えれば軌道がこの面から飛び出さないのは自明な気もするが。

上で角運動量保存則が出てきたが、これが \theta=\pi/2,\;\dot{\theta}=0 という仮定よらずに成り立つことは簡単に分かる。L=r^2\dot{\phi}角運動量の z 方向の成分*1だが、シュヴァルツシルト時空の球対称性から x, y 方向の成分 L_x,\; L_y も保存することは明らか。
最初 \theta=\pi/2,\;\dot{\theta}=0 だったとすると、L_x=L_y=0
軌道が \theta=\pi/2 の面からはずれたとすると、平均値の定理から \dot{\theta}\neq 0 となる時刻があるはず。この時刻で L_x,\;L_y の少なくとも一方はゼロではない。これは L_x または L_y の保存に反する。

参考文献 : 佐藤文隆, 『相対論と宇宙論』, サイエンス社

*1:空間が曲がっていて軌道角運動量をベクトルと考えることはできないので「成分」という言い方はおかしいが、意味は通るだろう。